蔵王山水苑に暮らす

熟年者のユートピア

私ども夫婦は山水苑内の住環境を現在こう評価している。 建築7年、当初の利用目的だった私どものセカンド・ハウスは、昨年春以来、いまや掛け替えのない定住先へと変容してしまった。大げさに言って、この老後プランの変更は、小生の現役引退後から足掛け4年間にわたるロンドン生活に根拠があった。顧みてそこでの暮らしは、これからどう生きるのかを自らに問いかける“小さな旅"であったのかも知れない。

年金生活に入ろうとするイギリス人の多くは、都会を離れゆったりとしたカントリー・ライフを楽しむことが最大の夢であるといわれる。現に、広々とした緑地帯や田園風景の中で、それぞれが思い思いの趣味やスポーツに興じたり、ボランティア活動に携わっている姿を真のあたりにすると、真の生活の豊かさとか生きがいとは一体何かと改めて考えさせられるのであった。そんな生き方をめぐる様々な価値観の違いを意識しながら、いつしか私どもも、きっと山水苑の中でならイギリス人の例にあやかって快適な老後生活を送れるに違いないとの思いが芽生え、ついには、帰国したら直ちに蔵王での田舎暮らしを始めてみようとの決断に至ったのである。

ただ、いかに山水苑が行き届いた管理体制の中で基本的生活要件をすべて整えているとは言え、いざ横浜の自宅を引き払って蔵王町の住人となるにあたっては、やはり一抹の不安があった。子供や孫たちから遠ざかる寂しさ、冬の厳しさ、買い物の不便さ、文化的刺激の欠如などなど。

しかしながら、ちょうど丸一年が経過した現在、これまでの結果を振り返ってみると、ほとんどすべてが杞憂に過ぎなかったことが確認できた。新幹線や生協宅配サービスの利用、仙台市や山形市へのアクセス、インターネットの活用など、工夫次第でそれほど大きな問題とはならなかったのである。それどころか、「健康第一」を当面の最優先課題と考える私どもにとっては、宮城蔵王の大自然に囲まれた静かな環境と新鮮な空気の中で、毎日爽快なウォーキングや温泉入浴を楽しめるメリットの方がはるかに大きく、かつ、何物にも替え難いものがあると考えている。今や、時折首都圏へ出掛けることがあっても、その喧騒や人混みに体の方が拒否反応を感じてしまい、ほうほうの体で逃げ帰ってくる始末である。願わくば、今後ますます苑内の定住者が増え、趣味同好者の集まりとか地域社会への奉仕活動などを通じて、苑内ライフ・スタイルの一層の多様化と質的な充実が図られんことを心から期待している。